ペドン・パーク ーペドロジスト誌を読もう!ー

 雑誌ペドロジストに掲載された論文の土壌断面や景観写真を紹介します。こちらで紹介している論文はどなたでもご覧いただけますので、調査や論文執筆のこぼれ話と合わせてぜひご一読ください!

三重県中北部の水田土壌(濃尾平野~伊勢平野)
  • 掲載論文(未公開期間中)
    水谷嘉之,大門奈那子,藤井琢馬,西美弥子,平舘俊太郎
    三重県北中部の低地に分布する水田土壌の特性と分類
    ペドロジスト, 2022, 66巻, 1 号, p. 17-29
M01
グライ化灰色沖積土/ 日本土壌分類体系
細粒質グライ化灰色低地土/ 包括1次試案
Eutric Gleyic Pantofluvic Fluvisol (Pantoloamic)/ WRB 2014
M02
表層グライ化灰色沖積土/ 日本土壌分類体系
細粒質表層グライ化灰色低地土/ 包括1次試案
Eutric Pantofluvic Fluvisol (Anoloamic)/ WRB 2014
M03
普通灰色沖積土/ 日本土壌分類体系
細粒質普通灰色低地土/ 包括1次試案
Eutric Pantofluvic Fluvisol (Pantoloamic)/ WRB 2014
M04
普通灰色沖積土/ 日本土壌分類体系
細粒質普通灰色低地土/ 包括1次試案
Eutric Pantofluvic Fluvisol (Endoarenic)/ WRB 2014

調査‪こぼれ話

写真の断面は県内モニタリング調査(定点調査)によるものです。三重県の農耕地は水田が主体であり、調査地点も水田です。当然のことながら、断面写真はデータとしても貴重で、“真正面からキレイに撮りたい”と思うのですが、試坑の作成は水田に対する破壊行為のイメージもあるため、なかなか大きくは掘れません。このため、深い土壌断面ほど斜め上からの撮影になりがちです。また、調査前に作業概要は生産者の方に説明していますが、実際のイメージは伝えにくく、調査当日は怒られないだろうかとおびえながら作業を始めます。とはいっても怒られたことはなく、生産者の方や近くの農家の方たちが来られた時は、むしろ興味をもって見てもらえますし、圃場整備前の様子などを教えてもらえるよい機会になっています。(水谷)

大江山オフィオライト・ナッペ上の蛇紋岩土壌(兵庫県養父市関宮)
Js-F1
典型暗赤色マグネシウム質土/ 第二次案
普通マグネシウム型富塩基土/ 日本土壌分類体系
Epile Cambisols (Dystric)/ WRB
Js-F2
典型普通褐色森林土/ 第二次案
普通褐色森林土/ 日本土壌分類体系
Haplic Cambisols (Dystric)/ WRB
Js-F3
塩基性風化変質赤黄色土/ 第二次案
普通風化変質赤黄色土/ 日本土壌分類体系
Haplic Cambisols/ WRB
Ys-P
典型グライ沖積土/ 第二次案
斑鉄型グライ沖積土/ 日本土壌分類体系
Gleyic Fluvisols (Eutric)/ WRB
Js-F1
Js-F2
Js-F3 Ys-P 水田

調査‪こぼれ話

姫路の老舗酒造会社、龍力本田商店の本田武義氏(故人)から「蛇紋岩米で日本酒作りたいんですわ~、中尾さん土調べてえな…。」と依頼されて、渡邉さん(現 京大土壌研准教授)とともに2009年5月に調査しました。蛇紋岩土壌は暗赤色またはチョコレート色という前情報通りの土もありましたが、Ys-F2のような明るい色の断面もあり、『蛇紋岩土壌=暗赤色』と決めつけない方が良いな…という印象を強くした記憶があります。また、痩せ細ったコナラや馬酔木が優占する貧弱な植生がいかにも蛇紋岩地帯らしく、土壌と植生のつながりを強く感じました。(中尾)

葛篭川流域の森林土壌(高知県四万十町)
HIN(ヒノキ人工林)
典型普通褐色森林土/ 第二次案
普通褐色森林土/ 日本土壌分類体系
Haplic Cambisol (Humic, Clayic) /WRB
BL(広葉樹林)
典型普通褐色森林土/ 第二次案
ばん土質褐色森林土/ 日本土壌分類体系
Haplic Cambisol (Humic, Clayic) /WRB

実験こぼれ話

この論文は学部4年の頃のテーマで、深夜延々格闘したショーレンベルガー抽出実験が思い出深いです。いまではCECはバッチ法で測る人の方が多いですし、流速調整できる装置もあるようですが、ショーレンベルガー法は土壌によって抽出液の滲出速度が違う上に、最後に表面の液が無くなる直前に止めなきゃいけなくて、土が空気に触れてしまうとやり直し!しかも、4時間以上20時間以内で液を交換しないといけないって縛りまであって、バイト後にいい感じになるような流速を狙ってコックを微調整して出るものの、バイトから戻ったら土壌によっては全部液が落ちてしまってたり、逆に液がピクリとも減ってなかったり、また徹夜かよ!?って嘆く日々。当時の土壌実験って、学生にとっては結構根性試し的なものだったよなぁ…って思います。(若林)

久住高原の非アロフェン質・アロフェン質黒ボク土(大分県竹田市久住町)
厚層多腐植質非アロフェン質黒ボク土 /第二次案
厚層非アロフェン質黒ボク土 /日本土壌分類体系
Silandic Melanic Hydric Andosol (Acroxic, Hyperdystric) /WRB
鍵層の様子
50-72cm:段原降下スコリア(約4000年前)
100cm以深:鬼界アカホヤ火山灰(約7300年前)
草原の裸地化
2006年11月撮影

調査こぼれ話

この調査は、久住高原にある九州大学の実験施設周辺で牧草の枯死が生じたので土を調べてほしいと草地学の増田泰久先生(現 九大名誉教授)から連絡を受けて行ったものです。8月に草地更新で播種したので、11月の調査時には一面が草で覆われているはずですが、上の写真のように広い範囲が枯死して裸地化していました。
その年の少雨気象による土壌の収縮と土塊化も一因と思われましたが、牧草の根が酸性害でやられているようだと増田先生にお聞きして調べたところ、表層が非アロフェン質で、その分布を追ったところ久住高原から阿蘇外輪山に酸性度の強いこの非アロフェン質の表土がかなり広がっていたというものです。(久保寺)


宮古島の泥灰岩由来の赤色土壌(沖縄県宮古島市城辺町)
典型黄褐色森林土/ 第二次案
赤色粘土集積赤黄色土/ 日本土壌分類体系
Haplic Acrisols /WRB
調査地の景観
(撮影はいずれも永塚鎭男氏)

調査こぼれ話

この土壌断面は、故永塚鎭男名誉会員が2000年11月、宮古島での土壌調査中に偶然、見つけました。沖縄地方では泥灰岩(クチャ)由来の土壌は”ジャーガル”と呼ばれ、その大部分は土地改変により、”未熟土”とみなされてきました。しかし、この赤色土壌は、クチャ上に位置するにもかかわらず、侵食や土地改変から免れ、このような形で残存していました。この赤色土壌の存在は、最終間氷期以前から宮古島の一部が陸化していたことを証明する貴重な化石といえるかもしれません。(前島)