ドクチャエフ著 「Russkii Chernozem」日本語訳公開のお知らせ

ロシアのチェルノーゼム翻譯グループにより、ドクチャエフ著「Russkii Chernozem」が編訳されました。ここに全文を公開いたしますので、ぜひご覧ください。
ロシアのチェルノーゼム翻譯グループ訳 ドクチャエフ著 「Russkii Chernozem」(PDF 2018年4月公開
この翻訳について
1.テキスト: ここに訳出したのは、1883年V.V. Dokuchaevによってサンクト・ペテルブルグ (以後、単にペテルブルグという) で出版された「Russkii Chernozem (ロシアのチェルノーゼム) 」である。この翻訳には、1936年のSel’khozgiz(国立集団及び国営農場文献出版所)版に基づき「Kniga po Trebovaniyu (ブック・オン・ディマンド) 」によって2012年に復刊されたA4版551頁 (付地図3枚) のものをテキストとして用いた。この版は、1936年当時ソ連土壌学のリーダー的地位にあった学士院会員V.R. Vil’yams*の監修の下で、K.A. Timiryazev農業科学アカデミー・土壌学講座助教授 (Dotsent) Z.S. Filippovichの編集により復刊されたもので、Vil’yamsの前書きとFilippovichによるDokuchaevの伝記も巻頭にあるが、これらは翻訳に含めていない。本文中や巻末の編集者註にも多少Vil’yams派の見解が強調されている点があるが、有用な情報も含まれているので訳出しておいた。

*Vasilii Robertovich Vil’yams (1863-1939):19世紀半ばに鉄道建設技師としてロシアに移住したアメリカ人Robert Williamsの子としてロシアに生まれた。1889年にロシア国籍を得、1894年に開設されたモスクワ農業研究所の土壌学及び一般農学講座のAdjunct Prof.となり、1897年教授となる。後に学士院会員に選ばれ、牧草輪作システムを唱導して、ソ連農業に大きな影響を及ぼした。土壌学者としては単一土壌生成過程の説で知られているが、今日ではほとんど取り上げられることはない。

なお、このほかに、ロシア電子図書館から本書の初版本をダウンロードすることができたので、テキストの数値や記述に疑問のある時には、この初版本を参照した。


2.翻訳グループと分担: この翻訳を次の6人のグループの共同作業として行った。ローマ数字は分担した章である。 
岩花 剛  アラスカ大学国際北極圏研究センター (地球雪氷学)   Ⅸ
久馬一剛  元京都大学 (土壌学)  Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ、Ⅶ
小林 真  北海道大学フィールド科学研究センター (森林生態学)   Ⅹ
永塚鎭男  元筑波大学 (土壌学)  Ⅰ、Ⅱ
松浦陽次郎 森林総合研究所 (森林生態学)  Ⅷ
森下智陽  森林総合研究所東北支所 (森林土壌学)  Ⅴ
Dokuchaevによる「まえがき」は、永塚と久馬、附録と1936年版編集者の補註は久馬が分担した。 
なお、全体の用語と体裁の統一などの編集作業は久馬が担当した。


3.地名、人名などの固有名詞は、一定の表記転換法によってローマ字化されている。これはロシア語の日本語への変換に極めて問題が多いためである。例外としてモスクワ、ペテルブルグやクリミア、コーカサスなど、日本でもよく知られている都市や地域名だけは日本語表記を用いた。ロシア語人名のローマ字変換にはとくに問題が多いので、1967年に出版された本書の英訳版*の表記を援用した (例えばロシア語のГерманは通常のローマ字変換ではGermanとなるが、英訳版に倣ってドイツ系ロシア人のHermannとしているし、英語変換でPettsgol’dとなる人名はPetzholdtとしている) 。なお、ここに英語版としたものは、イスラエル建国後の早い時期に、「ソヴィエト科学文献英訳プログラム」の中で翻訳されたものであるが、その原本を手に入れることができず (恐らく日本中に1冊もない)、辛うじてあまり質の良くないコピー (読めないページがある) をインターネットで見つけ、ダウンロードすることができたものである。ただ、翻訳者は地理学や土壌学の素養があったとみえ、独自に的確な註を付けている場合まであるし、文献の出典をテキストよりも詳しく示している場合も多い(ただし原則としてそれを翻訳には含めていない)。したがって上述の研究者名のローマ字転記も、信憑性が高いと考えられる。

*Russian Chernozem; 1967、Jerusalem, Israel Program for Scientific Translations [Available from the Department of Commerce, Clearing House for Federal Scientific and Technical Information, Springfield, Va.],  Translated by N. Kaner, ⅸ、419頁


4.翻訳にはテキストのページ数をつけてある。原著の註釈は、それが現れる段落の終わりにその翻訳を入れた。翻訳の本文中にポイントを落して括弧入りでつけてある説明は簡単な訳註である。ポイントを落さずにつけてあるのは、もともと原文にあったもの。長い訳註は原著の註と共に各段落の終わりに、出現の順にアステリスクをつけて配列した。


5.現在ではしばしば地名が変わっている。下に主要なものの一覧表を示す。
テキストの地名     現在の地図上で見る地名          
Ekaterinoslav       Dnepropetrovsk(Dnieper川下流)
Nizhnii Novgorod    Gor’kii(Nizhnii Novgorod県の県庁所在地)
Samara        Kuibyshev(Volga川中流左岸)
Simbirsk        Ul’yanovsk(Volga川中流右岸)
Tsaritsyn        Volgograd(Volga川下流)
ただし、翻訳に附した地図にはテキストの旧地名がつけてある。


6.この翻訳を読む際にはインターネットで地図を参照されるようお勧めする。例えば第3章のKursk-Mar’ino-Belgorod-Khar’kov・・・・の記述を読む際には「Google map Kursk」でKursk 周辺の地図を出し、縮尺を小さくすればBelgorodがKurskの南にあり、さらに南に現在のウクライナとの国境を越えるとKhar’kovがあるのがわかる。ズームアップしても村の名前は出て来ない場合が多いが、地図上に足跡をなぞることで、Dokuchaevの調査旅行を追体験する面白さが味わえよう。


謝辞
 多くの方々にお世話になったが、とくに英語版をインターネットで探し当ててダウンロードしていただいた名城大学の村野宏達氏、初版本の毎頁ダウンロードから1冊の電子図書に仕上げるまでを助けていただいた2015年当時京大土壌研 (現福島県農業総合センター・浜地域農業再生研究センター) の矢ヶ崎泰海氏、図版や地図の作成と原稿への取り込みをご援助いただいた京大土壌学研究室の真常仁志、渡辺哲弘、柴田誠の諸氏にあつくお礼を申し上げるものである。